鬼剣舞と地域資源
先月、大学時代の後輩の結婚式に出席するために岩手県北上市へ行ってきました。その披露宴でのこと。開宴早々、会場に入ってきたのは異形の面をつけた男たち。お囃子にあわせて勇壮に踊り出しました。鬼剣舞です。名前は知っていましたが、実際に見るのは初めてのことでした。
地元出身の方に聞いてみたら、鬼剣舞はいろいろな機会で披露されるとかで、披露宴の席も決して珍しくはないとの由。鬼剣舞は1993年に重要無形民俗文化財に指定された民俗芸能ですが、地元のさまざまな場で披露され、人びとの生活に溶け込んでいるさまに大変感銘を受けました。
『日本民俗大辞典』(吉川弘文館)によれば、鬼剣舞とは「盆の精霊供養の風流念仏踊り」(581頁)とのこと。披露宴では念仏はなかったと記憶していますが、本来は先祖回向や念仏往生を願う踊りであったようです。だとすると、本来披露されるのも盆供養の場であったはずですが、現在はお盆にかぎらず、夏祭りや各種行事のアトラクションなどさまざまな場でおこなわれており、そのひとつとして披露宴があるということなのでしょう。地元の観光協会のHPをみると、たくさんの保存会があって、小・中学生ら若い世代も熱心に参加しています。民俗芸能は担い手もさることながら、披露する機会が減少したために、円滑な継承ができないという問題を耳にしますが、北上の鬼剣舞の場合、先祖回向という本来の目的から、祭礼や観光、そして結婚式といった人々の暮らしにまで浸透し得たことが、今なお地域の民俗芸能として担い手を維持しながら生き続けている一因なのかもしれません。鬼剣舞のこの柔軟に「生きている」側面は、地域資源としての民俗芸能を考えるうえで重要なヒントになるのではないでしょうか。
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